金谷武明

1971年、千葉県生まれ。上智大学を卒業後、新卒で入社した会社を3ヶ月で退職。無職期間を経て30過ぎにゲーム会社法務部に入社。ECサイトのディレクターというキャリアチェンジを経て2007年2月よりGoogle勤務。上智大学の現役生、若手卒業生を繋ぐ上智大学ネオソフィアン "Neo Sophians' Network"の代表をしつつ、現在は慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)に通う。

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最初の10年は今の仕事と全く関係ない仕事をしていた

濱田:ではまず金谷さんのキャリアのスタート時点のお話をお伺いしたいんですが、最初からWeb業界で働いていたわけではないんですよね?

金谷:そう、最初の10年は今の仕事と全く関係ない仕事をしていたんだよね。そもそも就活していた時期はインターネットが普及していなかったし。もともと学生時代は音楽をやろうとしていたんだけど、90年代に入って音楽のトレンドが変わってしまって、今で言うJ-POPみたいな音楽が主流になった。でもそういう時代に自分がどういう音楽を作るべきかわからなくなったんだよね。だから「こういう音楽をやりたい」っていうのを見つけてからバンドを組んで活動していこうと思ってはいたんだけど、結局やりたい音楽が見つけられず、学生時代は音楽をやらなかった。曲を作ったりしていただけでこれといって何もしない、意識の低い学生でした(笑)。

濱田:そうだったんですね(笑)。それで音楽の道に進まず、就職活動をされたんですか?

金谷:うん、でも普通に就職活動をしたんだけど、どこからも内定をもらえなかったんだよね(笑)。ちょうどバブルがはじけたってこともあるけど、音楽やりたかった気持ちが残っていて全然準備ができていなかった。それで1年就活のために留年したんだけど、やっぱり音楽がやりたくて、でも音楽をはじめない、だからといって仕事もしたくない、というダメダメな感じで結局2年目の就活もどこもだめだったんだよね。最終的には地元の会社に就職したんだけど、合わなくて3ヶ月で辞めちゃったんだよね(笑)。

濱田:3ヶ月ってまた早かったですね(笑)。

金谷:入ったからには一生懸命やろうと思ってたんだけど、どうしても納得いかないことがあって試用期間終了とともに辞めちゃったんだよね。

濱田:辞めた後はどうされたんですか?

金谷:一ヶ月は無職。何しろその頃はまだ第二新卒という言葉もなかった頃で、転職というと経験者募集ばかりだから応募できないし、卒業してるので新卒枠では受けられないし、ほんと苦労したんだよね。おまけに当時はインターネットもないから転職情報は非常に限られていて、転職雑誌や新聞の下に載っている求人情報からくらいしか仕事が探せなかった時代で。で、苦労しながらも何社か応募して、何社か落ちて(笑)、でもなんとか特許事務所に就職できた。特許事務所での仕事は事務的な仕事だったんだけど、残念ながら特許にあまり興味を持つことができなかったんだよね。でも事務所の中には特許に興味ある人たちはたくさんいて、そういう人たちを見ていて、俺も何か本当に自分が関心あるものを仕事にしたいって漠然と思うようになったんだ。

濱田:すごくわかります。自分が苦手なことを楽しそうにやっている人を見ていると、同じことを思います。

金谷: 一日の大半を仕事して過ごすわけだから、やっぱり好きなことを仕事にしたいよね。とは言っても、実は特許事務所での仕事を楽しいなって思っていた時期もあった。17時には仕事が終わったので、ギターを弾いたり曲を作ったりする時間もたくさん取れたのでなんて幸せな仕事なんだろうと(笑)。でもそんなことを幸せだと感じているのは一瞬だけだったな。さすがに30歳くらいになってもっと色んな経験がしてみたいと思うようになった。いつまでも「うちの会社楽だから」なんて言ってたらやばいよね(笑)。

インターネットの最先端を見てみたかった

濱田:それで金谷さんは、その後どういう仕事をしたいと思うようになったんですか?

金谷:20代は結局ずっと音楽をやっていたんだよね。自分がやるべき音楽なんて見つからないままだったんだけど、社会人になってとりあえずバンドを始めたんだ。その頃、ちょうどWindows95が普及し出した時期だったのね。俺が買ったのはMacだったんだけど(笑)。そこからWebに興味を持って、バンドのホームページを作って色んな情報を発信したりしてた。英語の歌詞で歌っていたし、世界に自分の音を届けられるんじゃないかってわくわくして。 ひょっとしたらミック・ジャガーが俺の曲を聴くかもしれないと思うと、なんてエキサイティングな時代がやってきたんだろうと。
 そういう楽しさがあったから、Webの仕事をしたい、Webクリエイターになりたいって思うようになったんだけど、30歳で未経験だから、まあ普通は雇ってもらえないじゃん。そこで特許の仕事をしていたから、特許を軸にどこかに入れないかなと思って活動をしていたところ、入社できたのがソニーコンピュータエンタテインメントの法務部門。1年半くらい働いた後に社内公募に応募して、Webの部署に行くことが出来た。だからインターネットの仕事を始めるまで社会人になって10年近くかかっているんだよね。

濱田: そのWebの仕事は楽しかったんでしょうか?

金谷: 楽しかった。いい仲間にも恵まれたし、本当に楽しかった。けど、インターネットの可能性がどんどん見えてきた時代に、それを活かせる環境では全然なかったんだよね。それでインターネットの最先端を見てみたいって思うようになって。そう考えたときに行きたい会社がGoogleだった。

就活が最初の職業の選択ではない

濱田:今って就活が上手くいかなかったことをきっかけに自殺してしまう人もいるじゃないですか。金谷さんも就活が上手くいかなかったわけですが、そういう若い世代を見ていて何か思うことはありますか?

金谷:就活が原因の自殺はなんとかできないかな、と思うよね。ひとつ思うのは、社会から必要とされてないとか、自分の存在を否定されたとか、そういう風に考えないでほしいな。全然そんなことないからね。俺の経歴を見てもらってわかるように1回目の就活もだめで、2回目の就活もだめで、そうすると俺なんか相当社会から必要とされてないことになっちゃうよね(笑)。
 でも今、普通に働いているわけで、必要とされてるかどうかなんて関係ないんだよね。それに大学生の就活って、ちょっと大げさに考え過ぎだと思う。人生の転機としてはもちろん重要なんだろうけど、最初の職業の選択ではないんだよね。みんな実は無意識に中学生の時に高校へ行く選択、高校生の時に大学へ行く選択をしてきているわけで。大学での就活だけ何か特別なことのように感じている人が多いけど、実は何度も職業の選択はしているんだよね。だから単に何度目かの将来の選択に過ぎないと思う。

濱田:それでもやっぱり、就活が上手くいかないと自分を否定されたような気持ちになってしまう人って多い気がします。

金谷:もちろん、友達が内定をもらっていく中で自分だけ取り残されているような感覚は今でも忘れない。それに内定が貰えなかったことはやっぱりそれなりにショックだったしね。でも2年やってダメだったんだからもう仕方ない、ということで就職活動で内定が貰えなかった、という現実は受け入れたんだよね。ただ、それは就活を2年やって、でもひとつも内定が貰えなかった、というだけの話で社会から否定されたわけでも僕自身が否定されたわけでもない。内定が取れなかったという事実は受け入れるのはきついかもしれないけど、事実だけど受け止めて、その気持ちを次のステップに活かせばいいんじゃないかな。実際、今の世の中ってそういう人にも優しい、挽回できる世の中になってきていると思う。俺もインターネットの仕事に就いたのは32歳だったしね。

周りを気にしてもいいことなんてひとつもない

濱田:今振り返ってみて、そういう挫折を経験したことは良かったと思えますか?

金谷:うん、俺はあの時の経験が失敗だというのならば、失敗して良かったなと思うし、失敗って貴重な経験だったと思う。あの時に辞めていなかったら、今の自分にはなれなかったな、と思うしね。20代は将来が見えなくて不安にもなったし、迷いも沢山あったけど、あの日々がなければ今はなかったって言える。

濱田:私も金谷さんのように、天職だと思えることを仕事にしたいです。

金谷:あ、いま俺は天職だと思える仕事をしてるとは思ってないんだよね(笑)。もちろんGoogleの仕事は楽しいし、好きだし、やりがいもあるけど、天職とは違うかな。それよりライフワークだよね。どんなライフワークを持って、今やってる仕事がそのライフワークにどう結びついているかどうかをイメージできるかどうかが大事なんじゃないかな、と思ってる。そして目の前のことに一生懸命取り組むことで次のステップが開けてくるんじゃないかな、と。先の事なんか見えるはずないから、まずはやってみないとね。

 振り返ってみると、20代は本当に音楽しかやっていなかった。スキルアップとか自己啓発とかビジネス的なことに一切興味ないから実際何にもやってなかったし、曲を作って歌を歌っていただけなんだけど、ついでにやっていたバンドのホームページの作成とかが今に繋がっているから人生分からないよね。20代の頃って周りの人と比べちゃったりして他人(ひと)が気になるかもしれないけど、周りを気にしてもいいことなんてひとつもない。それより、周りとずれていてもいいから自分の好奇心に突き動かされてそれをとことんやり抜くことから自分の未来が開けてくることもあると思う。それも思いがけない未来がね。先のことは見えなくて不安があると思うけど、未来はやっぱり見えないから面白いんだよね。

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